水分を含んで少し重くなった衣類のカゴを片手で持ちながら
スリッパを履いて縁側に降りたつと
低木の緑の陰から一斉に黒いものが飛び出した
喪服を纏った蜻蛉だった
体にまとわりつきながら飛び ....
喫茶店のカウンター席で少し苦味の強い珈琲を啜りながら辺りを見回すと
カウンターの真上一直線に吊られた細いステンレスの棒に
ドライフラワーふた束が仲良く並んで吊り下げられている
そしてそれらに並ぶ ....
重なる手紅い血潮に墜ちてゆく
祖国の夢も幻にして
今度はどんなうたをうたおうか
三時を少し回ったばかりの鴨川のベンチで川の香りをかすかに嗅ぎながら
風に揺らされたまま少し汗ばむ額に張り付く前髪かき揚げ
ごぉーごぉーと唸る白い水飛沫をみながら
....
第二次世界大戦中の上海
天皇機関説を唱えた美濃部達吉の弟子だった為に
難を逃れて移り住んだ家族
話をしてくれた女性の方は当時まだ幼く
美濃部の弟子だった父親が教鞭を取る
東亜同文書院大学近く ....
和室から見える景色はまさに夏そのものを現している
水色に薄められた絵の具に白を淡く馴染むように付け足した
そんな背景
伸びる焦茶の自由な線に緑は白く光り
ときおり吹く生暖かな息に気持ちよさそう ....
ちょんぎられた支援の端
暑苦しく嫌な顔をして高齢男性に説明を繰り返す
区役所の障害者支援係の職員
隣の子育て支援の係はというと
誰も客がいなくて暇そうに楽しくおしゃべりしている
女性のアルバ ....
朝のドラマを見終わった途端母が涙目で
「住んでいる家を売り払って財産として三分割する」と言い出した
そのドラマの内容は主人公の学生時代の友人が封建的な家制度に縛られ
横暴な夫にも悩まされた挙句そ ....
バッハはキリストが復活するまでの受難を描くことで
困難を乗り越える希望を描こうとした
後々の人々もお互いの違いを乗り越え
声を合わせて彼の曲を歌い継いできた
長い年月を経てどれだけの人々が流し ....
誰かの詩を読んでいてふと意識が途切れる
微かな自分の寝息に気づいて少し慌てて瞼を開いた
どうやら座布団の上に座ったまま眠り込んでしまいそうになっていたみたいだ
心なしか頭がズキっと痛くて重い
....
散歩から帰ってきた母と入れ替わりに私も外へ出た
6時を過ぎたばかりの夕方の空はまだ明るい
スロープ状の坂を下って土手へ降りると
むうっとした草独特の臭いがマスク越しでも鼻についた
手入れもされ ....
会員から預かったカネの在り方
わからずじまいのまま会計報告あげた役員に
怒り心頭の母
役員たちは問いただす母の口を封じ
まるで母が諸悪の根源であるかのように言いふらす
しかもトドメは
「あ ....
左首筋に喰らいつくドンとした重さを感じ
思わず顔を顰める
まるで虫がしゃぶりつくような薄気味の悪さ
しばらくすると何もなかったかのようにすっきり治るが
不意打ちのようにやってくる厄介者
....
些細な日常のことでもすぐ喧嘩になる
お互いが酷い言葉を投げかけあっても
いつのまにか何もなかったかのように元通りに笑い合う
お互いわがままを言い合い許し合う
私にとって母は母でもあり姉妹でもあ ....
黒か白か
白か黒か
肌色に近い赤か
波にゆらめく生命線
分断しては繋がり
溶けこむ
下降線と上昇線
鏡の前で無理やり
口角を上げようと
努力する人のように
Uの字を描いては
....
最近はめっきり聞くことのできなくなった
あの声
祖父が購読していた週刊誌に挟まれた
女の顔と富士山と訳のわからないものが
不揃いで並べられた不思議な絵
一瞬感じた引力のような力強い声 ....
少しがさついた指先が冷たくて
それでも「有り難う」という言葉が
何だか妙にあたたかい
特に大それた事をした訳ではない
ただ、世知辛い社会から追い出され
家も家族も失った人達に
水のよう ....
地は堕ち人々の叫びが聞こえる
笑い合った家族が一瞬にして哀しみに変わる
疲れ切った人々の朦朧とした現実
瓦礫の下に生き埋めとなった人々の無念な嘆き
年の始まりが自然による災いの炎と化す
....
蒼い蒼い海が拡がる
私が仰いで憧れた
白い沫に包まれながら
思いっきり泳ぎたい
願いは届いただろうか
あの海に
どこまでもどこまでも泳いで
辿り着きたい夢の天(ソラ)
夏の匂いがまた今年も風に運ばれてくる
青臭い山の薫り
土臭い大地の薫り
記憶の中で蘇る
荒い息と混じり合う快活な笑い声
額や首回りの汗を拭いながら愉しい目的地に思いを寄せたあの高揚感
....
重なる影に光が滲む
冥(くら)くて紅い円形画いて
浮かぶ天(そら)に思いを馳せ
僕はまた君を見上げる
激しく葉先を揺らし首を振る若葉
陽射しで白く光る緑と黄緑のコントラスト
まるでお互い語り合い討論しあっているようだ
穏やかな何もない
時だけが過ぎてゆく空間に放り込まれた我が身と我が魂
....
飛び込んできた朝の日差しが眩しくて
思わずもう一度目を閉じたら
葉の影がくっきりと黒く瞼に焼きついた
閉じた瞼から差し込む光
放射線状に溢れては溢れる
滲むように僅かに眼球を刺激し
朝 ....
私の瞳に映る翠の波
歌うようにうねり爽やかな風を起こす
私は眠りから醒めて大切な時間を探すの
輝きと幸福とが包み込んだ笑い声
それは私にとってのたからもの
いつまでも微睡んで微笑みを浮かべて ....
店棚にかはず飾られ賑やかに
楽器抱えて今や奏でぬ
今から話すことは誰にも言わないでほしい。
もし一言でも漏らしたら、きっと皇帝の名の下に処刑されてしまうだろう。
だから、今から話すことはナイショにしてほしいのだ。
いいか?ナイショだぞ?
・ ....
平日十時頃の大通り商店街は人通りもまばらで
柔らかに陽に温められた風が頬を撫でる
どこからか蕎麦つゆの香りが鼻を掠めた
自転車を漕ぎながら私はその余韻を楽しみ
踏切信号が青で遮断棒がまだ下がら ....
舞い落ちる桜乱れて水溜まり
鮮やかなるは憐れなりけり
川のせせらぎ
そやそやと
靡く風音さらさらと
緑の精はがやがやと
言葉を交わし笑いあう
黄色いたんぽぽ
青紫のジュウニヒトエ
大木の影にひっそりと
誰にも気づかれぬまま
命を咲か ....
吹き荒れる吹雪は去り優しい陽射しが大地を照らす頃
あなたの温かい眼差しのような春がやってくる
雪に埋もれた生命は息を吹き還すように精一杯、天に向かって手を伸ばすよ
それなのに大切なものが遠く ....
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