姫百合野/石瀬琳々
 
夏の野は風の恋歌(マドリガル)
花摘みの少女は一心に
草のまにまに漂っていた
白い花ひとつ挿頭(かざし)にして
赤い裳裾をしめらせながら
濃厚な夏の匂いがたちこめる
姫百合の花咲く野に
光は幾重にも交差をくり返し


少女は気付いていた
先程から少年がこちらを窺っているのを
林の中の少年は狩りの装い
けれど 切れ長の瞳は見つめている
白い指先が花をやさしく手折るのを
青い石の耳飾りがゆれるたび
胸の鼓動は早くなる


時はか細く怜悧な笛のよう
ふいに草を蹴散らし雄鹿が走り抜ける
少年は弓を引きしぼる
きりきりと狙いを定めながら
少女は突然の闖入者に驚い
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