「その海から」(31〜40)/たもつ
て
少し遭難していた
34
男は腕を組んでいた
腕から先は
肩も胴も頭も脚も
空っぽだった
十姉妹の形と
雨どいの静かな朝を
愛してやまなかった
35
夏至の入道雲が石化して
地面に落下し始めていた
僕の気配は時々あなたに似ている
例えばシャツの端をつまむ
その一連の仕草など
抜け殻のような虫の鳴き声
旧街道に並ぶ窓の内側では
この瞬間にも
いくつかの生と嘘が囁かれている
36
りんごの中で少年たちが
キャッチボールをしている
りんごの味をまだ
言葉でしか知らない
やがてボールは意味となり
りんごの
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