思い出未満/銀猫
 
仕事帰りの溜息と
一緒に開ける玄関に
がさりと音立てるチラシ広告に隠れて
茶封筒がひとつ


独りよがりな祈りを
天使は聞き届けてくれたらしく


それは
ご褒美のように
届いておりました




あなたが時間を切り取って
大切に作ってくれた音がします

それは
すきなうたを共有する
ただそれだけのことなのですが



実は愛より鮮明で
抱き合うより確かに
記憶に降り積む音

見知らぬ他人ではなく
かといって
手に触れることもない
そんな距離には丁度似合いの

いいえ
とっておきの時間の始まりです




一曲目が流れ出しました
添え文の一行目を読み始めます

繰り返し繰り返し聴くお気に入りのうた
幾度もなぞる筆跡と
重なって

重なって



思い出未満の時間は降り積みます










   グループ"文箱"
   Point(10)