裏銀座/はらだまさる
 
。十年前の夏、真っ暗闇の富士山のなかで、膝を抱えて脅えていた俺は、山に登りたいんぢゃなくて、山になりたかったんだと気付かされた。あたしは、あたしにあたしを歩いて欲しいんだ。真っ白なガスの向こう側で橙に揺れる夕陽が、私たちを淡い存在にする。力なく立ち尽くし、開ききったぼくらの細胞に、ペルセウス座流星群が音楽のように降り注ぎ、肉体からも空間からも時間からも解放される。X軸、Y軸、Z軸から解放されて、ただ流動的に存在する。あの、大きな一条の天の川は、ぼくらの思考だ。俺は呆然と歯を磨いている。山肌を真っ白に燃やす朝陽を、ファインダー越しにぼくは望む。あれから二日後に出会ったスカイトレイルするピンク色のキリ
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