裏銀座/はらだまさる
 
。咄嗟に、粉々になった彼女を抱きかかえたが、恥らう彼女に気がついて失礼なことをしたんだと思った。俺は青春の、新品のスニーカーの匂いを嗅いだときのような、どこか歯痒さが残る心持ちになった。君たちが烏帽子の頂、その小さな岩の上に立ち上がったとき、私はシャッターをきった。君たちはまるで青空から生えた植物のように、とても力強くみえた。あんなに硬い岩肌が、母親のように優しく感じられたのは何故だろう。野口五郎岳は、いつまでも穏やかに笑っている。どこまでも続く北アルプスの稜線。水晶岳に近づくにつれ、紫のコマクサ、白いキンポウゲや黄色いタカネスミレの花々が一面に咲き乱れている。20?弱のバックパックを背負い、岩に
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