降り来る言葉 XVII/木立 悟
ひとつが
どこまでもひとつに感じられ
ふたつが
どこまでも数え切れなく感じられる
街が街を過ぎるような
水のような音の時間を
子は歩む
子は沈む
千の手の波
千の手の顔
捉えられない渦の声
万の手から
億の手から
こぼれ落ちる火
雨の庭
曇の窓
子のまぶたの上に
つらなる火と声
羽ではないのに
羽であるもの
こだまたち
そのままの
こだまたち
雷光のあと
白と黒の他
色は失くなり
花はあふれる
道をふさぎ
誰も通れず
花だけが重なり
重なりつづける
流れる曇のひとつひとつが
小さな光の点に満ちてゆく
冷たく子の手をとるものが
音のかたちを指で示す
点の音が
(点の音が)
降って来る
(まだ降っては来ない)
降って来る
(まだ降っては来ない)
曇の光は増してゆく
ここにだけ
いまここにだけ
降りそそげ
白と黒の花のなか
子は目をふせ
手のひらになる
いまここだけの
手のひらになる
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