ベルセーズ/もも うさぎ
彼は 物書きだった
彼は古いランプを持っていて
ほかには何も持っていなかった
紙も
ペンも
なにも持ってはいなかったのだけど
彼は物書きだった
パリからオルレアンに向かう
列車の駅の前の 小さなアパルトマンの
日の薄く翳る半地下で
列車の轟音と
どこからか聞こえる古時計の時鐘と
昔読んだ古い書物
頭のなかの言葉が 彼のすべてだった
はずだった
あるとき
彼は上の部屋から
ピアノの音が聞こえるのに気づいた
ベルセーズ
それはただ繰り返して弾かれ
夢遊病のように甘
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