去りにし日々、今ひとたびの幻/佐々宝砂
 
あさんじゃない女のひとが見えてるときもある
だれも見えないときもある
それでもおとうさんはいっしょうけんめい見ている
なんでもいいんじゃないかと思う

わたしは最近はまいにち
シェルターの外にでる
だあれもいなくて
てかてかひかる黒いガラスが
あたりにたくさん散らばって
すごくほこりっぽい

ときたま風のなかに声がきこえる
歌う声がきこえる
あの声をきくとわたしは泣きたくなる
からだの奥がどおんと痛くなる

わたしよりすこし低いあの歌声は
近ごろはもうおだやかでなく
ヒステリックにさけんでいるのだ


父さんは返事もしてくれなくなった
毎日ただ奥のガラ
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