去りにし日々、今ひとたびの幻/佐々宝砂
 
ガラスを見ている
人類がまだたくさんいたころの
ピッグ・ボムが地表を焼くまえの
去りにし日々の
今ひとたびの幻を

私は父さんを捨てようと思う
持てるだけの食料をリュックに詰め込み
着られるだけの服を着込んで
ちょっとだけノスタルジックな気分になって
ふりかえる
でも父さんはこっちを見ない
父さんは当分のあいだ死なないだろう
私の不在にも気づかないだろう

シェルターから這い上がる
歌がきこえる
今日は切なく静かにきこえてくる
歌詞はわからない
でも意味はわかる
今は私にもわかる
あの切実な欲望の意味が

だから私は出かけるのだ


逢ったことの
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