おまん瞠目(おまんとくれは、その参)/佐々宝砂
おまんが目覚めたのは桜咲き誇る春であつた。
おまんの目に呉葉(くれは)の顔が映つたときは、
こゝがあの世と云ふものであらうかと思つた。
さうではない、こゝはこの世だと気づいてなほ、
おまんの春は夢のやうに過ぎ去つた。
盗みを生業(なりわい)とし、
男どもを従へ、
火の雨を降らした日々さへも、
この暮らしに較ぶれば、
よほど現(うつゝ)らしく思はれた。
今は夏である。
山中の渓谷であるから夏とて涼しい。
さうでなくとも、呉葉の顔は涼やかである。
呉葉は官女の扮装(なり)をして、
あでやかに笑つてゐる。
しかし、この美しいひとが
確かに呉葉であると証せる
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