去りにし日々、今ひとたびの幻/佐々宝砂
 
シェルターの中は安全なのよ と
おかあさんはいう
外に出たらみんな死んでしまうんだ と
おとうさんはいう

てんじょうによじのぼって
あけちゃいけない外も見えないまどに
そっとほおをあてて
耳をすませば

やさしい声が歌う
なんだかなつかしい声が歌う

その歌の調子だけは
はっきりとおぼえているのだけれど
歌詞はどうしてもおぼえていられなくて
それがかなしくてたまらなくて
わたしはいくども耳をすます


おかあさんが死んで
おとうさんはへんになった
まいにち奥のガラスに顔をくっつけて
まぼろしを見ている

おかあさんが見えるときもあるし
おかあさ
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