ペイター「ルネサンス」(2)/藤原 実
 
)


結局ペイターにとって、美とは追憶である。



    ああ麗はしい距離(デスタンス)
    常に遠のいてゆく風景・・・・・・・・・

    悲しみの彼方、母への
    捜り打つ夜半の最弱音(ピアニツシモ)。

               
            (吉田一穂『母』)



眼にうつるものを絶えず遠ざかっていくものとして見ること、分解してゆくものとして見
ること。現実という「事物の洪水」のなかの刹那の一瞬、最弱音を聞き取る耳を持つこと。

そして追憶であるために、かれとかれの美学を奉じるものにとって、その表現は時空にし

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