失語の春/石瀬琳々
 
涙なみだ花のつぼみを押し抱きながれるままの失語の春の


ほしいまま虚空をすべる鳥にこそつばさに適う言葉も持たず


指さきを染める苺のいじらしさキスするほどのかわいい夢を


見残してまた過ぎてゆく桜雨、次の世までも忘れ得ぬひと


あいすると風の梢をふるわせて頬寄せるきみ若葉は匂う


こだまは返る、胸とむねの青い渚、遠い彼方の鳥のひと声


幾たびも荒地野原に跪くあいするという痛みを赦して


草の穂をゆらす風、今をさらえよ心は惑う感じやすくも


たそがれは本をひらいて目を閉じる頁(ペイジ)をめくる夏の指さき






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