羽化少年/塔野夏子
透明な祭壇の上で
君は羽化する
私はただ見あげ見つめるだけ
君は羽化をくりかえす
私はただ見つめつづけるだけ
君はそのたびごとにちがう羽をひろげて
雨の羽
砂の羽
旋律の羽
脱ぎ捨てられた蛹(さなぎ)は
そのたび君の足元へとほろほろと崩れ消えてゆく
果実の羽
影の羽
水晶の羽
君を見いだしたそのときまで忘れていた
少年とは少年であるかぎり
果てしなく羽化をくりかえすものであると
破片の羽
叫びの羽
流星の羽
そうやって奇跡さえたやすくくりかえす
そのあやうさをきっと君自らは知らない
見あげ見つめる私の目の前で
君はいまあざやかに夏の羽をひろげる
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