夏の万華鏡/塔野夏子
 
夜空いちめんに
きれいなさびしさを散りばめて消えてしまったのは
君だったんだね

始まらない世界と
終わってしまった世界ばかりが
僕らのまわりに転がっていたけれど
君はそれらのあいだを軽やかにすり抜けながら
きらきらと踊ってみせてくれたよ
あのどこか壊れてしまいそうだった
夏のただ中で

万華鏡を回せばその中に
あの時の君が見えそうな気がした なんて
つまらない感傷を
自分でわらってみたりするけれど

やがて誰も無口になって
もしかしたら本当の夏は
もう記憶の中でしかめぐっては来ないの

それでもまた七月が来て
雨があがれば夜空を見あげている

きれいなかなしみを散りばめて消えてしまったのは
君だったんだね なんて
いま気づいたように呟いてみるけれど
本当はあの夏が終わったときから
ずっと知っていたんだ

万華鏡の中で踊る君の幻でさえ
あざやかなまま静かに遠ざかってゆくんだ




   グループ"夏について"
   Point(4)