愚者の楽園(マリーノ超特急)/角田寿星
れた
こじんまりとした花壇に
ひと株の野バラが忘れられている
色褪せた小さな花と乾いた葉っぱ
吹き荒れる海風のなか枯れずに咲いてるのは奇跡だった
(ここは潮の香りしかしない)
葉っぱにしがみつくアブラムシをちくちく取りながら私は
野バラに話しかける ねえ 結婚しない?
私はあなたの助手もできるし
それからプラットホームでジャスミンを育てよう
海に侵食されたこんな世界だけど
この駅だけは花の香りでいっぱいにしよう
そしていつか私の子供たちが
広いジャスミンの庭ではしゃぎまわる日を夢みよう
(マリーノ超特急の旅人よ もしあなたが
海風のなかに花の香りを感じたなら
感じてくれたなら)
いつの間にか
見渡すかぎりの海に月がのぼって
私は今週も帰りそびれてしまった
明日はふたりで列車を待とう
ジャスミンガスも出来たし
彼もまんざらでもないふうで
月がきれいだし
実のところ
海洋特急はいつ到着するのかわからないしで
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