ノート(物悲しいかたまりが)/木立 悟
物悲しいかたまりが
からだの奥をふくらませている
水がどこまでも
水であるのは悲しい
言葉の色が
明るく消えてゆくのは悲しい
むらさきだけが
むらさきでいるのは悲しい
口のなかにいつも
糸があるのは悲しい
左目はまぶしく 右目は暗く
どちらも何も見えないのは悲しい
わたしが
わたしでしかないのは悲しい
受けとめきれない言葉がこぼれ
次々と次々と消えてゆくのは悲しい
名も無きものに名を与えようとすることに
悲しみをおぼえないことは悲しい
物悲しいかたまりが
ふくらみふくらみ からだを破り
言葉をつかさどる部分を連れて
星を出ていきかけている風のにおい
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