日毎の溶解/岡部淳太郎
毎日、夕方になると世界が溶け出す。誰もがみなとっく
に気づいていることなのに、誰もそのことを口に出さな
い。(それは、おそろしいことだからだ。)たとえば、
あらゆる文体が溶け出して、誰が何を言っているのかも
わからなくなる。さらに、人びとの脚が溶け出して、み
んな家路に着くことがかなわなくなる。帰りたいのに、
帰れない。息は帰る場所を失い、それぞれの肺の中でぐ
るぐると回っている。整理されえない混沌が、古代の血
流を秘めて、新しい皮膚をまとってやってくる。そのよ
うにして、いつも夕方になると世界は溶け出す。おなじ
みの旅。あるいは、強いられた冒険。夜になると、その
溶解過程も
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