石のための散文詩/岡部淳太郎
ねむる石のねむれない夜のかたくこごえた思
い出のなかのあらゆる音をききあらゆる色を
みてあらゆる味をなめてあれはとおい海のな
がい砂浜の潮とたわむれる歳月だったあれは
ふかい青空のしたのひろい土地のれんげ草が
咲きほこる紫色の迷子のあいまのかすかな安
堵のひとときだった石はかたくその密度は内
側にいくほどたかく石の中心では石は思いを
こめてぎりぎりまでかたく自らを凝縮させて
いてそれでいて石の外側は欠けやすくはがれ
やすくいともたやすく傷つきいともたやすく
思い出の断片はこぼれおちそのおかげで石の
表面はあまりにもぶざまにでこぼこしていて
日に焼かれて月の無言を通過して思
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