閃篇5 そのご/佐々宝砂
 
1 失恋

これが恋を失うということなのか。初めて知った。初夏の空は暗くなりかけてそれでもまだ真っ暗ではない。私の心のようだ。私は大好きだった人を見つめる。度の強いメガネ、茶色っぽい癖っ毛、いつも少し笑っているようなくちびる。大好きだった。でも、もう、大好きじゃない。私は自分の心の変化に気づいてしまった。これが失恋なんだと思う。私は今日私の恋を失った。

2 最悪

彼女は自分が開けた箱の中を見つめた。暗い穴のように見える箱の中。もうきっと何もない。何もないことを祈りつつ彼女は自分がやってしまったことを考える。不和、諍い、疫病、嘆き、盗み、嘘、老衰、疑い、嫉妬、ありとあらゆる世界の悲し
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