閃篇5 そのご/佐々宝砂
悲しみと夜の子どもたちを彼女は解き放ってしまった。「最悪だ…」と涙する彼女の耳に小さな明るい声が聞こえる。「最悪です。ほんとに最悪です。つまりこれ以上悪くはならないんですよ」…パンドーラーは顔を上げ声の主を探す。最悪の次にやってくる何かを。
3 相合傘
相合傘は肩が濡れてしまうから嫌いだと思いながら、道の先を行くきみを見ている。きみと相合傘したことが一度だけある。きみが覚えているかわからないが僕はあのとき雨に濡れたきみの髪が僕の首に貼りついたのを覚えている。今、きみの相合傘の相手が誰かわからない。僕は足を早めて追い抜きながら相合傘のふたりの顔を盗み見る。きみは柔らかく笑っていた。それは
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