短編小咄「常連客」/虹村 凌
 
反対側の席には、一口も手を付けられていない珈琲カップが置いてある。
冷え切った珈琲は、冷たく鈍い光を放っている。
そして、その椅子には、もう誰も腰掛けていない。


「もう終わりにしよう」
その一言を口にすると、洋一(21歳・仮名)は煙草をもみ消した。
侑子は、黙って外を眺めたままだった。
その様子を見ていた洋一が席を立とうとした瞬間、侑子は言った。
「あなたの子供が…」
「いい加減にしろよ!」
洋一はたまらずに怒鳴った。
「もう何度目だよ!もう聞き飽きた!冗談じゃねぇよ!
 だからイヤなんだ、お前はとは別れる!これでおしまいだ!
 今まで何回そう言った?!全部嘘だった
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