十二月の本/石瀬琳々
十二月の本を静かにひらく
革表紙を少し湿らせて
窓の外には雨が降っている
雫が滴り落ちる またひとつずつ
わたしの頬にこぼれた涙 どこかで流したはずの涙
向こう側にすこしずつ落ちて
波紋を浮かべる遙かなみずうみになって
十二月の本の向こうに
裸木が一本雪原に佇んでいる
誰かの目印になるように
いつか森になることを夢見るように
白い素足で走る森 あなたがまるくなって眠る森
夢のなかで抱きしめていた
ひるがえる梢があなたであるように
十二月の本は音もなくひろがる
凍った空に鳥が一羽飛んでゆく
すべてを越えて届くように
わたしの胸に線を引くように
風を
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