金魚(散文詩)/そらの珊瑚
くりしたのだろう、傍らの母親らしき女の太ももあたりに抱きついている。
無性に腹がたち、「じいさん、だまってろ」と言いたかったが、哀しいかな、筋金入りの意気地なしであるゆえ、言えなかった。生涯でたったひとつと呼べるものなら呼んでみたい、若い日の恋も、意気地のなさが災いして、実らせることはできずに終わった。
じいさんがおしなべて皆 優しく枯れると思ったら大間違いで(ばあさんもたぶんそうだろう)偏屈じじいになるには、なるだけの理由があるのかもしれないが、孤独で侘しい老人であっても(老人は死に近い生き物なので、たいてい孤独であって侘しいものだが)少女の風呂で、楽しい空想の風呂で共に遊べるじじいでありた
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