金魚(散文詩)/そらの珊瑚
 
て帰ろうと、貸出しカウンターに並ぶと、前に居る幼い少女が
「キンギョサン、オフロ、ハイッテルヨ」
 と人差し指をアンテナのようにさして言う。カウンターの上に直方体の水槽が置いてあり、二匹の赤い金魚がゆらゆらと泳いでいる。すると、不意に現れた老人(見た目は私より十は上だろう)が
「オフロではない、風呂に入ったら金魚は死ぬ」
 と抑揚のない、しかし無駄によく通るバリトンを響かせて、去っていった。カウンターの中で作業していた女の手が一瞬止まる。若者のいうところの、空気が固まるとは、まさしくこのことを指すのではないか。何気なく口から出た一言の行方が、思いもかけない波紋を描いたことに、少女はびっくり
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