つくし/士狼(銀)
 
たくさんの雨が
パンドラの筺の、その奥底から降ったような夜
咳が止まらなくて
眠れなくて

今朝方ツクシが顔を出し始めました
と、一筆箋に書き始める

生物表記には片仮名じゃないと落ち着かなくて
ツクシ、と書いてはみたものの
思い出すのは
平仮名の丸みと柔らかな春

ひょん、ひょん、と蝶々を追いかけながら
つくしの前で立ち止まって
春の匂いを嗅ぎ取ってから
幸せそうに
大きな黒真珠のような目を細める
菜の花に囲まれていたあの仔はもう、いないので
思い出すのは
最期の目に拡がった絶望ばかり

光は
すぅっと、まるで箒星の尾のように
一瞬で奪われた

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   Point(14)