素顔/士狼(銀)
眼鏡を外し
全ての輪郭を奪う
青色の歯ブラシも赤橙色のオイル瓶も
銀色の蛇口も
緩やかに溶け出して
水の流れに混ざり
排水溝が渦を創り始める
わたしはその様を
掌に縋る抵抗で知る
言葉にならない想いとかいうものが
まるで魚の骨のように
ちくちくとわたしを虐め
喉の奥で絡まるとき
わたしは裸眼のまま
曇った鏡に裏切りの名を描く
濡れた指先に月の光が反射し
星の影を掬いに行くため
玄関の扉を開ける、と
夜が桜の蕾に凝縮されて
青白い肌を
風は優しく愛撫する
サイレンを受けて朱く染まる雲に
委ねた福音は漆黒の香り
石膏の肌に
一瞬
触れる
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