舌足らず/士狼(銀)
今よりもっと
空が高くて
今よりもっと
砂の中に潜む星を
見つけるのが上手だった頃
四歳の幼さで
舌足らずな
Ich liebe dich.
ドイツ原産の弟と話す為に
ひとつだけ覚えたフレーズが
ついさっき
戯れに手にした辞書から指先を通って
爛々と目の前に浮いている
今よりもっと
素直だった
今よりもっと
太陽が好きだった
忘れたかった無邪気な純心
アイラブユーは
好きになれなくて
大好きな家族に
名も知らぬ花に
触れた緑に
仰いだ空に
掴めない砂に
小さな傷痕に
それから
相棒である弟に
ぎゅっと抱きしめて
そっと撫でて
風に乗せて
可愛いしっぽを追いかけて
舌足らずな
イッヒリーベディッヒ
幼さにとって特別だった魔法の言葉は
父が教えてくれた大好きの呪文
忘れたふりを
していただけで
思い立ったら吉日生活
お気に入りのサンダルを引っ掛けて
咲き始めた桜に
そっと
舌足らずな愛を囁きに行こう
前 次 グループ"complex≒indication"
編 削 Point(20)