象を待つ/草野春心
永い夜の後に
束の間の朝が来て
君はシャワーを浴びている
水の弾けるその音だけを僕は
窓辺に立って、じっと聞いている
冬の朝陽に目を細め
少しずつ思い出してみる
昨夜見た夢のこと、そこで僕は
まったく同じ場所に居た
君の暮らすアパートの
君の部屋の、しんとした窓辺に
こんなふうに立っていた
ひとりきりで、そして
一頭の象がのっそりと
朝の車道を歩いてゆくのを
黙って眺めていた
干草のような肌の色を
淡い光に煌かせ、その象は
たじろぎもせず行進していた
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