象を待つ/草野春心
 

  けれども右前足には
  痛々しい銃創が抉られ
  そこだけが赤黒く膿んでしまっていて
  やがて一匹の蝶がやってくると
  その傷跡を隠すように
  不思議な模様の羽を休め
  僕は窓を開け
  そっと手を伸ばして



  夢はそこで終わった
  永い夜の後に僕は
  束の間の朝に放り出された
  アパートのすぐ傍には
  大きな道路が横たわり、もうすでに
  鮮やかな自動車たちが行き交い
  道を歩く月曜日の人たちは
  冷たい風に涙を浮かべて
  せわしなくすれ違う



  夢は終わった
  でも、何かの手違いで
  道が続いているかもしれない
  僕は窓辺に立って
  もう一度
  象が来るのを待っている
  君の浴びるシャワーの音が
  恵みのように降りそそぐのを聞きながら




   グループ"春心恋歌"
   Point(6)