象を待つ/草野春心
けれども右前足には
痛々しい銃創が抉られ
そこだけが赤黒く膿んでしまっていて
やがて一匹の蝶がやってくると
その傷跡を隠すように
不思議な模様の羽を休め
僕は窓を開け
そっと手を伸ばして
夢はそこで終わった
永い夜の後に僕は
束の間の朝に放り出された
アパートのすぐ傍には
大きな道路が横たわり、もうすでに
鮮やかな自動車たちが行き交い
道を歩く月曜日の人たちは
冷たい風に涙を浮かべて
せわしなくすれ違う
夢は終わった
でも、何かの手違いで
道が続いているかもしれない
僕は窓辺に立って
もう一度
象が来るのを待っている
君の浴びるシャワーの音が
恵みのように降りそそぐのを聞きながら
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