【批評祭参加作品】「へんてこな作家」という親愛の情/石川敬大
 
た」「短篇にわたっても同様で、生前に活字にしたのは全部で三百六十頁。いっぽう、未刊分は千頁ちかくにのぼる。きわめて限られた期間に驚くべき量と質の小説を書き、そのほとんどを世に示さなかった点でも、きわめて奇妙で、へんてこな作家だった」と。

 池内は書く、「どうしておもしろいのか、よくわからない。そのくせ、強く記憶に残る」と。有能な官吏でありながら、「妻のない男は男ではない」、ユダヤ人としては半人前の男であり、生涯を書くことに捧げながらもついには「焼き捨てるように遺言」する男。わたしには、この「へんてこな作家」と書きつける池内の表記に、カフカという作家に対する親愛の情が、にじむように顕在している
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   グループ"第5回批評祭参加作品"
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