【批評祭参加作品】「へんてこな作家」という親愛の情/石川敬大
妻と買物をしたり、食事をしたりするのが夢」で、「いつもそれを願っていた」らしいのだが、「カフカは生涯、独身だった」。ユダヤ人である彼らの社会は、「独身を通すのが」困難であった。それは、「ユダヤの戒律が説いている。『生めよ、ふやせよ、地に満ちよ』」という、「たえず迫害を受け、差別されてきた」歴史ゆえの、「迫害と差別をはね返すには、みずからの血縁をふやすこと。同族をひろげること」、「それこそ生きのびる方法だった」し、「妻のない男は男ではない」という社会であった。
「カフカは生涯、独身だった」が、ずっと女性を遠ざけていたわけではない。家が狭くて騒々しく、外で暮らす三人の妹のアパートをよく執筆のた
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