【批評祭参加作品】失われた「鈴子」を求めて/香瀬
のかわかんなかった。
階段の両脇は山林になっていて、お月様に照らされて雪化粧の木々は震えている、その間で時折白衣を着ているおっさんがちらりちらりとこっちを見ていて、あたしを追いかけているように見えるので、あたしは足早に階段を、
おっさんは「町田の町子さん、病気です」と繰り返すので「医者」なのだろう、あたしは「町子さん」ではないので病気ではないけれど、じゃあ誰って言われてもわかんない。たぶん「わたし」もわかんないから、「こわれかけたビデオデッキ」はそんな風にわかんない人たちを示していて、病院の待合室はだいたいみんなわかんない人たちで、「再生している映画」はどうせ昔話に過ぎないのだから
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