【批評祭参加作品】失われた「鈴子」を求めて/香瀬
ングはしないことにしたが、ふたつに分かれた社内を、びゅんと新車が横切った。川島の声で、びゅんと横切った。カワシモさんの声、と女子社員がかしこまって言った。シシャモは、それはおれじゃないおれじゃないと、首を横に振り、パーティションで区切られてしまった川島の肩を、カワシモが叩いた。これはただの肩叩きじゃないのだからな、とシシャモの声で、川島は涙をこらえている。予定されていた会議は全てキャンセルされ、ねえこのあとどうするの、と聞かれたカワシモは、川島を指差した。近頃の世の中は、どこもかしこも木っ端微塵だな、という顔をすれば、ぼくたちは助かるのかもしれない、と川島はどうやら本気で思った。(一条「川島」全文
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