批評祭参加作品■回り道、つぶやく。 ??五十嵐倫子『空に咲く』について/岡部淳太郎
いうよりは自らに向けての問い直しのように響く。そして、この詩は「悲しい人いませんか?/悲しい人いませんか?」という問いかけが繰返されて終る。この問いかけも、自らへの問い直しであり「悲しい人」は結局自分であり、それを再確認することによって「エマの死」を自らの内に大切にしまいこんでいるような印象だ。
引用した詩以外にも、ところどころで語り手の心は揺れ動いている。そこには女性らしい細やかさも認められるし、ひとりの生活者としてふと立ち止まってしまうがゆえの苦さもある。だが、語り手は「空に咲く」ことをあきらめていないように見える。それは生に対する誠実な態度であり、自らの心の軌跡をたどり直すことによって生まれてくる恩寵のような何かなのかもしれない。人が日々心の中でたどる回り道。その中で発せられるつぶやき。その過程を丁寧に記録したものとして、この詩集はある種の貴重な爽やかさを読者に与えてくれる。
五十嵐倫子『空に咲く』(二〇〇六年十月七月堂刊)
(二〇〇七年七月)
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