批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
は、そうした〈日常〉へたどりつくための果てのない彷徨を記録した書物といえるかもしれない。「1」から「25」までのナンバーをふられた無題の詩篇がずらりと並ぶ。そこに書かれた言葉は魅惑的で謎めいている。
黄泉から戻ってみると
日常は いつものように続いていた
まるで昨日もそうしていたかのように
妻は台所で鯖を焼いている――だが
いつのまにか家のまわりは
鴉たちの鳴き声に充ちているのだ
詩集冒頭の「1」の書き出しである。ここで話者は自らが「黄泉から戻って」きた存在であることを語る。「黄泉」すなわち「死者の国」である。〈日常〉か
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