霧の様な死あるいはナルシシズムについて/立原道造を読む/渡邉建志
僕に露天風呂の中で本を読むという楽しみを教えてくれたのは友人Tだった。Tが言うには、夜の鞍馬温泉は人が少なくて、本を読むのにもってこいだという。僕は鞍馬温泉には行かなかったが、さまざまな旅行先で本を携えて、露天風呂に入っては本を読んでいた。目が疲れると目をつぶった。のぼせてくると風呂から上がってまた本を読んだ。かつて知人と温泉に行ったとき、漱石の夢十夜を持って入り、朗読ごっこをしたことがある。湯気の中で幻想的な気分だった。家の風呂でもよく文庫本を持って入り、一時間ぐらいゆっくりと読む。そうしているうちにわかってきたのだが、風呂の中ではどうやら言語中枢というか論理回路というかが、緩んでくるようで、読
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