水のうえの夜/木屋 亞万
あの夕ぐれの向こうに
我を緊張させるあの子が
待ってくれていると思う
彼女が我をやさしく呼ぶ
地平があかい
雲がくろい
人が皆、膨脹していく
地平があかいのは
燃えているからか
もう夜になっても
おかしくない頃だ
誰も助けに来ない
気がする、助けを
求めて歩き続ける
最後に見たあおぞらが
嘘のようだ
くろ
景色が押し潰されて
感覚器が膜に覆われた
悪夢のようだ
あかい夜
水が欲しい
しずかだ
そうか
蝉がいない
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