野球/木屋 亞万
疲れ果てた大地に雨が降った
染み込んでいく一粒ひとつぶが
次第に流れを作りはじめて
大地の顔をぐしゃむじゃにしてしまう
泣いているのか死んでいるのか
わからないような崩れ具合で
少し不安にさせられる
誰もいない大地
塗料がはげている緑色の三塁側
長椅子と天井に湿気がこもる
誰かが忘れていった軟球が
ひとつぶに洗われて大地に沈んでいく
塁の回りは水溜りが激しい
打席は特に深い穴
大地には誰もいない
背広の背中が汗ばむ
雨の中で汗をかくのは気色が悪い
湿度にどうも参ってしまう
いっそのこと濡れてしまえ
鞄の書類、名刺や機械類もすべて
機械の記憶な
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