イトトンボ(百蟲譜41)/佐々宝砂
 
やがて埋め立てられる小さな沼のうえ、
イトトンボが飛んでいる。
二匹繋がって。
澱んだ水面をいくども叩きながら。

沼からちょぼちょぼと流れ出すどぶ。
そのそばにある休耕田。
その脇を流れてゆく、
渇水して50センチほどの幅しかない川。

イトトンボに選択肢はない。
この小さな沼ほど産卵に適した場所は
この町にない。

だからイトトンボは卵を産む、
やがて埋め立てられる沼の、
まだイキモノに満ちた水のなかに。



(未完詩集『百蟲譜』より)
   グループ"百蟲譜"
   Point(6)