タガメ (百蟲譜42)/佐々宝砂
 
水埃にすっかり覆われて
ほんのすこしも
動きそうになかった
実際さわっても動かなかった

二本の前肢は
がっちりとハヤをつかまえていたが
そのハヤさえも
半ば腐っているように見えて

この川ももう半ば腐っていて
その半ば腐った川にタガメがいるなんて
信じられないというより辛くて
タガメよもうがんばるなと呟く

しかしタガメは死ぬまで生きるのだろう
生き腐れても



(未完詩集『百蟲譜』より)
   グループ"百蟲譜"
   Point(4)