ハゴロモ(百蟲譜20)/佐々宝砂
 
見捨てられたガラスの温室は
屋根も壁も割れて
折れた支柱には
へくそかずらが絡まって

でもその支柱のそば
深紅の小さな薔薇が咲いていた
頼りなげに細い茎には
淡い色の棘がたくさんあった

そっと摘みとろうとしたら
棘がいっせいにうわっと飛び立った
私はびっくりして温室を飛び出した

あの棘はハゴロモという虫だったのだと
図鑑の挿画で知るのは
それから三年はあとのことである



(未完詩集『百蟲譜』より)

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