窓辺の{ルビ日向=ひなた}に置かれた{ルビ壺=つぼ}は
ざらつく{ルビ表面=おもて}を
降りそそぐ日にあたためて
まあるい影を地に伸ばす
窓辺の日向に置かれた壺は
「何者か」の手 ....
一番古い記憶は
今朝の味噌汁の味
誰かも知らぬ人が
手を重ね
どこか懐かしい
そんな温もり
きっと
気のせいだろう
ふと、風が止んだ。
ひととせの幻を手に
いくとせも彷徨う旅人
一体何に酔っているというのか。
帰る場所は{ルビ何処=どこ}に捨ててきたというのか。
正午を少し ....
泣きたい
できれば悲しくないように
逃げたい
あたしのいないところへ
.
海底を這うようにして生まれてきたんだろう
人はいつも遠くから鳴る音が懐かしいんだ
風邪ひきむすめは夢を観た
あんこうがやってきて
あたまが痛いのかい
....
朝起きて冷蔵庫を開けたら
祖母が入っていた
さみくてさみくてなんだかも
生ぎてぐのがいやんなっちま
なんて言うので
そんなに寒いのなら
もう死んでしまったっていいんじゃない
と思った ....
沈めて
と願ったその刹那
更に深い夜はやってきて
静かな音を立てて流れていく砂時計
目に見えて時が落ちていく
君の指で触れられたうなじが
私の指先までも痺れさせ
それを悟られ ....
深く 長い髪の
水脈は 静かに 拍動する
たたえているのは
浄化の記憶
プルトニウムの鉱脈の下
暗く 白く 透けて
目のつぶれた白色の生き物
メタモルフォゼの呼吸
湖水の暗 ....
陽が落ちて夜が来る 月が出て僕は目を覚ます
僕は昼間が嫌い 太陽がまぶしい
僕はいわゆるドラキュラ 君の血は吸わないけど
棺桶で眠るのさ 昼の間眠るのさ ....
あなたを想えば
私が私を溢れます
だけれど誰かの為に泣けるほど
美しくなんて無いのだから
これはきっと涙ではないのです
ほんとはもうはっきりとは覚えていないのだから
これはきっと涙 ....
散策の道すがら
春の嵐がしきりと猫背に纏わりつく
普段寂しい公園広場は
活きかえっていた
絶え間ない風の子の喚声で
ミレニアムを ....
最後なので
くだらない話をしましょう
どうだっていい話をしましょう
ニヤニヤしましょう
だって最後だから
深刻になったってしょうがない
泣いたってしょうがない
自己満足したいなら
それ ....
「地球は廻っている」
学校でそう習った
だが本当か私は知らない
教えられただけ
眠らなくても朝はくるし
働かなくても日は落ちる
それは私の目でみた
たしかな事実
眠りたくもない ....
男は
シャンデリアを殴り続けた
シャンデリアは落ちて
男はつぶされて死んだ
降りつづける雨は
もしかしたら辛い過去かもしれません
降っては止み
降っては止みを繰り返し
いつしか涙のようになって
まるで一人ぼっちみたいに
その「ぼっち」が淋しく響いて ....
切なさにほだされて
歩けなくなる夜
誰かの幸せを唐突に願ってしまう
たくさんのなぜは消化されるはずもなく
刻々と恨みへと姿を変える
私はたくさんの夢を抱えて
たくさんの愛を抱えて
たくさ ....
夏の土は掘り返された
今まで誰もにも見られなかった
その暗黒が
ついに地上の光に照らされ
盛られた土たちは
ふうっと息をついた
初めて受けるその眩しさに
知らない世界を知る
こんなにも ....
鍵が手元に2つあります。
これで無くしても大丈夫。
でもやっぱり無くしたくないです。
我儘だねって笑うかな?
スペアキー。合鍵。誰のための?とかね。
部屋に帰れば暗いです。
たま ....
朝起きると、
夫の蟹を食べる。
水のきれいな土地で生まれ育った夫の蟹は、
沢蟹に似た味がして、
なかなかの珍味である。
蟹は大抵、
夫が寝ている間に、
湧 ....
白詰草の花冠
年上のお姉さんに教わった
作り方
今でも覚えている
手に草の露を付けながら
夢中で編む
その姿は
小さな花嫁のようで
強く生きるその花は
だけど、優しく微笑みか ....
目をつむり
まだらを見るとき
まだらは過ぎ
新たなまだら
影は降り
新たなまだら
かたち 模様 紋章
思うままに
思う部位に現われ
現われ止まない
重なりを
....
忘れたくても
忘れられない思い出の中には
必ず忘れ物があるの
気付かずに落とした
忘れてはいけない何か
いつか拾いに来てくれると
ずっとずっと待ってるの
忘れたくても ....
早朝の通り
誰もいない
ここは本当に東京?
寒い
がらんとした空
車の運転が楽だ
絹糸をつむぐ
喜ばれる
ホッとして眠りに付く
今日までだ今日が過ぎれば
楽になる。
毎週 ....
(読んだ後に眼を瞑ってもう一度)
かえるのなきごえ
暗い道
かん高い女性の声
切れかかった蛍光灯の灯り
雑音
空に舞う星たち
かえるのなきごえ
....
来る日も来る日も
こうやって
涙さえでるのを忘れて
来る日も来る日も
こうやって
焦燥を{ルビ抱=だ}く他仕方ない
去る日を何時も
忘れてしまって
うつくし日々は嗚呼何処
....
君は踊り続ける
君のような人間はいない
僕と合わせてくれるような人は
一緒にスコーンを食べてくれて
一緒にファンタグレープを飲んでくれる人
一緒にお風呂に入って
一緒に髪を乾 ....
あまり大きくないアパート
階段をのぼって
一番高い踊り場から見える空の
ぐうんと遠く
そのまんなかにぽかんと
おぼろの三日月が浮かんでいる
あまり無意味にもの悲しいのはきらい
....
逃げ出したくなる その瞬間に
私の手元には何も無い事に気付く
果てしない道のりを
何ももたないまま、どうやって過ごせば良いのか
昔の私なら私さえいれば何とでもなったはず
....
窓辺には
ガラスケースにしまわれた
誰かの心臓が置かれている
真夜中の無人の部屋に現れる
今は亡きピアニストの面影
奏でられる旋律に
永い眠りから覚めた心臓は
脈を ....
思いのほか簡潔な物語の夢が
字幕付きで流れていくのを見送って
目が覚める
昨夜の手紙はまだ届かないようで
筆の跡は今日も乾かない
ささやかな足音で
捨てに行きます
思い出に引っ掛った ....
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