[15]佐々宝砂[2005 04/24 02:37]★2
萩原朔太郎『純情小曲集』より愛憐詩篇

「夜汽車」

有明のうすらあかりは
硝子戸に指のあとつめたく
ほの白みゆく山の端は
みづがねのごとくにしめやかなれども
まだ旅びとのねむりさめやらねば
つかれたる電燈のためいきばかりこちたしや。
あまたるき"にす"のにほひも
そこはかとなきはまきたばこの煙さへ
夜汽車にてあれたる舌には佗しきを
いかばかり人妻は身にひきつめて嘆くらむ。
まだ山科(やましな)は過ぎずや
空気まくらの口金をゆるめて
そつと息をぬいてみる女ごころ
ふと二人かなしさに身をすりよせ
しののめちかき汽車の
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