群集挽歌/岡部淳太郎
 
ふらふらと
さまようのか
群集よ
醒めている目を閉じて
開いている口を噤んで
ふらふらと
朝から 夕へ
夕から 夜へと
たださまようのか
群集よ

君たちはまぼろし
まぼろしの人間
駅前の雑踏で
曲り角の先のバス停で
ひとことも不満を洩らさず
ひとことも喜びの声を洩らさず
ただたたずみ
ただ歩き
ただ揺られている
君たちはまぼろし
まぼろしである君たちには顔がない
名前がない
今日の話題になるような意味も行動も
ない

ふらふらと
さまようのか
群集よ
明晰な頭脳を暗く濁らせて
敏感な皮膚をあえて黙らせて
ふらふらと
東から 西へ

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