無人列島/岡部淳太郎
 
ひとりであるはずがなかった
それなのに彼女は
婚約者と一緒に赤信号の前でたたずんでいた時
いきなり眼を見開いて
髪ふり乱し 手足をばたつかせて
狂女のように走り出し
泥の川に身を投げた
そして彼女も
海の中に 消えた

この列島の 至る所で
この現象が起こっていた
ある都市では
電車を待っていたり
買物をしていたり
酒を飲んでいたり
地上的な労働をしていたり
それぞれの場所で別々のことをしていた人々が
何かが焦げたような臭いがする
そう言い残して走り出し
先を争って泥の川へと
飛びこんでいった
またある海辺に住む老人は
海鵜が声にならない叫びを上げると
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