無人列島/岡部淳太郎
何かが焦げたような臭いがする
最初に気づいたのは
たったひとりの 男だった
どこにでもいるようでいて
どこにもいないような
若いひとりの 男だった
男は狂っていたのだろう
その臭いに鼻をひくつかせると
いっさんに駈け出して
都市を流れる泥の川に
飛びこんだ
そして流されるまま
海の中へ 消えた
男の発作のような行為を
見ていた人々は
はじめは呆気にとられ
次には笑い出した
翌日には新聞の片隅に
ささやかな事件として報道された
だが人々は
いつまでも笑ってはいられなかった
次に気づいたのは
数日後に結婚式を控えた女だった
もちろん彼女は
ただのひと
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