透明工房/佐野権太
今宵も匠は
あざやかな手つきで
ガラス球をつるり
音もなく水槽に沈める
瑞々しい、青とグレイと白の珠
覗き込むたび
妖しく映ろう彩雲は
硬く閉じ込められていて
届きそうで、届かない
物悲しい、紅と茜と金の珠
ほどいてしまえば
儚く壊れてしまうから
そっと唇、滑らせて
冷たさを味わう
麗しい、藍と象牙と銀の珠
またひとつ、匠は
真新しいガラス球を取り出し
ブラックライトを背に浴びて
ソーダの泡沫を吹き込んでゆく
針の先ほどの色雫
最後の一点を
定めて
落とし込む
刹那
ふわり
羽根を広げた
未完成
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