夜店談話/蒸発王
やっぱり恥ずかしかった
9歳の頃
母さんの反対をふりきって
黄色のヒヨコを一匹買った
ふわふわで可愛いそいつは
7日で死んでしまって
お墓を作って泣いた
手の中で冷たくなる
あの感覚が
しばらく手の平に残っていて
死んだ事よりも
冷たくなることに
其の重さに
切なくて泣いた
10歳の頃
屋台のおじさんが
おまけで作ってくれた飴細工は
小さな鳥の形をしていた
尻尾だけ長い鳥は
今にも割り箸を離れて
飛んでいってしまいそうで
急いで食いついた
溶ける甘さを抱えながら
甘味が肺から背中へ届くみたいで
翼が生えて
飛べる気がした
真上に輝く白鳥座まで
どこまでも
飛べる気がした
『夜店談話』
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